巫女さん物語 TAKE 2 |
![]() 正月も終わり人々がのんびりとしていることにも飽きた頃事件は起こった。 今思い返せば成る可くしてなったことだったかもしれない。しかしその時はそれを受けとめることはできなかった。 ちょうど1月も第一週が終わる頃、臥人は綾乃家に向かっていた。たった一人の肉親だったじいさんを亡くした綾乃の様子を見に行ったのだ。 綾乃は臥人が中学の時に都会の学校から転校してきた。交通事故で両親を亡くし、親戚をまわった挙げ句田舎のじいさんのところに来ることになった。 じいさんは街でただ一つの寺の神主をしていた。じいさんはそんな綾乃をよく面倒見てくれた。じいさんの伴侶はもうすでに亡く10数年も一人で暮らしてきたので突然増えた家族を暖かく迎えてくれたのだ。綾乃はそれから料理洗濯など家事をこなしながら学校に通っていたため友人を作ることも無く、あまり学校でもほとんど目立たなかった。 そのせいか年の割にはしっかりとした、悪く言えば子どもらしくないところがあった。 高校に入る頃から巫女の真似事(と言っては失礼だが)をしたりもするようになって正月に見かけたこともあった。からかったのを覚えているがそれ以上に巫女姿は似合っていた。中学時代はずっと同じクラスだったためよく話したので顔見知りだった。 仲が良かった訳じゃないけど独特の雰囲気に興味があってよくちょっかいをかけた。 そんなつもりは無かったんだがあれくらいの年頃になると照れくささがあり素直に声はかけれないもである。おかげでよく喧嘩もしたが人に言えないことも相談できるような中になった。恐らく学校で感情を隠さず見せるのは臥人にだけだった。しかし中学を卒業し同じ高校に進学したがクラスもかわり話づらくなったせいか前ほど顔を合わすことは無く、さらに高校に入学してすぐ臥人に彼女が出来たためあまりあうことが無くなってしまったのだ。それでも綾乃はいい友達だと思っているが。 ![]() 綾乃のじいさんは20代で今の寺に着きずっと街を見てきたので周りの人々から大変慕われていた。それを証明するかのように葬儀には多くの人達がやってきた。 80歳を過ぎていたので長寿国家日本といえども決して短命訳ではない。しかし人々にとっての悲しみをやわらげる理由にはならなかった。 特に孫娘の綾乃は誰よりも深い悲しみに包まれていた。 臥人は綾乃の家(とは言っても寺であるが)のそばまでやってきた。 長い階段を上り門をくぐると息を切らしながら叫んだ。 「おーい、綾乃。きてやったぞ。出向かいくらいしろ。」 家の横開きの扉が開き袴姿の綾乃が顔を出した。 「あら臥人、どうしたの? なにか約束でもしてたかしら。」 いつもと変わらないような口調で臥人に対応する。臥人には無理をしていることがわかっていた。だがそう思われたくない用だったのでいつもどうりに振る舞った。 「わざわざこんなとこまできたんだからあがんなさいよ。お茶くらいだすよ。」 「当たり前だ、ついでに茶菓子も付けろよ。」 「はいはいわかりました。」 綾乃はあきれた顔をした。そして、いつもとは変わらない笑顔を見せて臥人を中に案内した。 「今、お茶持ってくるからおとなしくしててね。」 臥人はこたつに潜りながら部屋を見渡した。 めくられていないカレンダーが目について色々綾乃も忙しかったことが察せられた。 本来なら優しい言葉をかけてやりたいところなんだが普段からのつきあい方からいって 不可能に近かった。それでも何とかしなければと思い、今日ここに来たのだ。 「何、きょろきょろしてるの。いやらしいわね。」 お盆を持って綾乃が戻ってきた。お茶とようかんが臥人の前に差し出された。 ほとんど均等にようかんは切られていたが少し大きい方を臥人に差し出した。 あとで難癖付けられるのがわかっていたから。臥人は綾乃の前ではちょっと子どもっぽいところも見せたりするのだ。 「それしかないからね。」 臥人がなにか言い出す前に釘を刺されてしまった。 「いーえ、茶菓子まで出してもらって不満なんてありませんです。」 わざとすました声でこたえたが皿の上にはもうすでに爪楊枝しか残っていなかった。 綾乃は少し笑ってそれを見ていた。 人心地ついたところで綾乃が切り出した。 「臥人、今日はなんなの。冬休みの宿題ならまだやってないよ。私だって忙しいのよ。」 冬休みの終わり頃には臥人は毎年のように綾乃に泣きつきに来ていた。 ただじいさんに、綾乃に頼っていてはいかんぞといわれていてちょっと来づらいところもあったが結局、こっそりと綾乃に見せてもらっていた。 「いや、今日は違うんだ。」 臥人は短く答えると深く息をして意を決したように綾乃を見つめた。 視線があった綾乃はちょっと変な顔をした。自分でもよくわかっていた。今までこれほど緊張したことが無いっというほど緊張していた。そして重々しく口を開いた。 「このたびは大変だったな。」 「うん。」 綾乃は素直にこたえた。いつもとは違うことを感じていたようだ。 「それでな、これからどうするんだ。お前、一人だろ」 本当ならこんな質問はしたくはなかった。綾乃の両親が亡くなっていたのは知っていたし寺のじいさんを頼ってくるくらいなのだから他に当てなど無いこともわかっていた。 「おじいさんの後でもつごうかな。」 俺の気持ちしってかしらないでか冗談とも本気ともとれる返事をした。 17歳の若さでやっていくことがどれほどこんなことか容易に想像できる、しかしじいさんをどれほど好きだったかもしっていた。これに対する返答には困った。 だが思い切っていってみた。 「俺の家にこないか、お前一人くらいなら何とかなるぞ」 家の事情のため臥人は一人暮らしをしていた。 だが裕福な家庭であったので生活に困ることはなかった。 ただ親のすねをかじって暮らしている奴が女を支えるなど思い上がりもいい頃だが、心の底から心配しての言葉だった。 「冗談はよして。彼女が怒るわよ。・・・ごめん。うれしいけどそれはできないよ。」 臥人が冗談など言っていないことは綾乃にはわかっていた。 だがどう考えてもそれに甘えることはできなかった。 「少しくらい蓄えあるし、高校卒業までは何とかなるよ。そしたら働く。」 「そうか。」 ここで話はとぎれてしまった。これ以上つっこんだ話は高校生の臥人には無理だった。 人を支えるどころか自分のことさえままならないのだから。 「俺、そろそろ帰るよ。」 間を嫌い臥人が切り出した。いささか不自然であったがもうこの雰囲気には耐えられそうにはなかった。 「うん、今日はありがと。それじゃあね」 この日以来、学校が始まるまで綾乃とは会わなかった。 綾乃の家に何度も行きかけては戻ってきてしまった。 綾乃に会ったとき以前のままの二人でいられるのだろうか? その不安を消すことを自分では出来なかった。冬休みがおわり会わざるを得ない状況になるのを待つしかなかった。そうして冬休みは終わった。少しの不安を抱きながら学校に出かけた。そのあいだのことを覚えてはいなかった。習慣で脚が勝手に歩くのについてきただけだった。 クラスの連中は皆かわりなく全員がそろっていた。 綾乃のじいさんのことなど全く関係なく普段通りであった。 「臥人君、元気だった。」 綾乃のクラスにためらいながらも行こうとしていたときに聞き慣れた声が背中から聞こえた。クラスメイトの詩織だった。 詩織とはクラスメイトと言うだけではなく恋人でもあった。 一年の頃、交際を申し込まれずっとつきあっている。 学年でも評判の女の子で色白の肌と腰まである長い髪は気品すら感じさせた。 それでいて性格もよく頭も良いとあげればよい点しか上がらなかった。 臥人には過ぎた彼女だが、なぜかどこか満足しきれないところがたった。 「まあね、お前の方はどうだった。」 「ごらんの通り、ぴんぴんしてますよ。」 そう言いながら詩織は柔軟体操をして見せた。 「全く、そのようだ。」 「それより休み中は全然会えなかったから少しはつきあってね。今日、暇。」 「ああ暇だよ。」 「じゃあ決まり。学校終わったらいつものところね。」 ![]() 授業のベルが鳴りお互い席に戻った。 寒い体育館の中で先生が決まりきった話をしている。退屈さから視線があちらこちらに行ってしまう。突然一点をさして止まった綾乃だ。さっきは会いに行くことが出来なかったので何となく落ちつかなかったそんな気持ちが通じたかのように綾乃がこちらを向いた。怒ったような顔をして前を指さす。ちゃんと話を聞けと行っているようだ。そして一瞬笑ってまた前を向いてしまった。その一瞬の表情で今までの不安が取り除かれたような気がした。 始業式も終わり約束の場所に来たときには詩織はもうすでに来ていた。 ここで詩織に交際を申し込まれたのだ。ファーストキスもここだった。 「おそいよ。」 「掃除当番だぞ。」 「うん、知ってるよ。」 詩織はぺろっと舌を出した。 いかにもお嬢様という様な外見に比べてかなり茶目っ気があった。もっともこのことを知っているのは恐らく臥人ぐらいだろう。みんなの前では容易にこんな表情は見せなかった。 「これからどうするんだ。急に言い出すから何も考えてないぞ。」 「臥人君の家に行こうよ。いいでしょ。」 「汚れてるぞ、俺の部屋。」 「だからいいんじゃないの。お掃除してあげる。ついでの晩御飯も作るよ。 買い物して行こ。」 すっかり奥さん気取りである。これほど尽くしてくれるのだが気に入らないところがあった。他の男と気軽につきあうところがあるのだ。詩織はただ映画や買い物に一緒に言ってるだけと言っているが彼氏がいるのにそんなことをされてはたまらないと思い、言ってもみた。その時は、私のこと信じられないのと言葉を遮られてしまいどうすることもできなかった。情けない話が自分に身分不当な彼女だと思っているのであまり強いことはいえないところが臥人にはあった。他の男と出かけた時は決まって綾乃のところにちょっかいをかけに行っていた。詩織は気にくわないようだったが自分も他の男と話したりしていることを自覚しているので文句も言わなかった。臥人にしても綾乃をそういう目では見ていないので全然気にするところは無かったが。 買い物を済ませ家に着いたときには臥人は大きな荷物袋を持たされていた。 「こんなにかってどうするんだよ。」 「いいじゃないの、あたしが好きでやっているんだから。」 詩織は全く気にもとめてないようだ。臥路は紐になっているような気がしてあまりいい気がしないのだが好意に甘えているうちの断るタイミングを失ってしまった。 「きったなーい。もうどうしてこんなに汚すのかしら。」 「だから呼びたくなかったんだ。」 臥人の言葉は詩織には届かなかった。もう掃除を始めており臥人の文句を汚れにぶつけながらゴミと格闘していた。 詩織が掃除を始めてしまったので臥人は暇を持て余して仕方なく詩織を見ていた まるでゼンマイ仕掛けの人形の用にちょこちょこ動く様は見てて飽きなかった。 臥人には納得がいかなかった。こんなに一生懸命になってくれるのに全く相手にしてくれなくなったりするのが。詩織は言わないが臥人のところに来なくなっている間は、他の男といることを知っていた。しかし問いただす気もなかった。夫婦でもあるまいし縛り付けなくてもいいと考えていた。と言うよりはそう言い聞かせていたと言った方がよかった。詩織を望みすぎてすべてをすべてを失うことが恐かったのだ。 この思案からふと解き放たれた。いつのまにか詩織は掃除を終わらせ料理にとりかかっていた。とんとんと野菜を切る音が響いていた。 「何か手伝うことあるか。」 「もうすぐ終わるからいいよ。」 さっきまで考えていたことが単なる妄想であるような二人の会話。詩織は臥人のことをきっと愛している。だがそれを疑わず信じることが臥人にはできないでいる。いつも自分の腕の中にいてそばにいてくれるそんな女性を求めていた。そしていつ単なる妄想が迷いに変わるかもしれない。詩織がこのまま臥人のそばを離れなければきっとそんな妄想も見なくなる。臥人はよそってもらったご飯を機械的に運んでいた。 がちゃーんという音がして茶碗が割れた。テーブルの上に置かれるはずの茶碗が臥人の手を放れそのまま床に落ちた。 「臥人君、大丈夫? 破片散らばっているから足下気をつけて。」 「詩織、今日遅くても大丈夫か?」 詩織の注意が聞こえて無いかのように切り出した。 「え、なに?」 「詩織、抱きたい。お前がほしい。だめか?」 詩織は何か言い出そうとしたが臥人の顔を見たとたんいえなくなった。そしてゆっくりと口を開いた。 「ぃぃょ・・・臥人君から、その、言い出すなんて初めてだね。」 少し恥ずかしそうにして目をそらしている詩織を見て臥人はたまらなく愛しくなった。 割れた食器を片づけているしおりの手を掴んだ。そして乱暴に詩織を引き寄せて唇を奪う。詩織の身体から力が抜けていくのがわかる。詩織の体が臥人に預けられる。臥人は抱き抱えるようにして詩織をベッドまで運んだ。詩織の手が臥人の背中にまわりぎゅっと抱きしめる。臥人はその手を振りほどき掴んだ腕を上るように手を滑らしていき詩織のそれを見つけると堅く手のひらをあわせた。そのときには詩織はベッドに横たわっていた。 「好きだよ」 その言葉に詩織は微笑んだ。わかっていてはいても口に出されるとやはり安心する。 臥人はその表情を見ながら唇を重ねる。詩織の瞳はすでに閉じられており唇を少しあけて臥人の進入を待っていた。舌が絡み合いお互いの唾液が混ざる。 臥人の手のひらが詩織の胸の膨らみを見つけそれを包む。そのまま円を描くようにゆっくりと動き出した。 「あっ!」 それに反応し詩織が声をあげた。その拍子で唾液が口からこぼれ落ちた。それを舌ですくってやりながら手の方は激しく動き出す。そのまま服の隙間から手を入れる。ブラの下に潜り込みもうすでに堅くなった敏感なものを指で掴むようにして刺激を加える。 詩織は口にたまった唾液で声が出せず苦しそうだ。もう片方の手は下から太股をなぞりながらその付け根の中心にたどり着いていた。そこはすでに湿っぽく少しなぞっただけで詩織は仰け反った。 「準備は言いようだね。」 濡れほそった下着をを下ろしながら詩織に確認をとる。 「ん、うん、」 恥ずかしそうに詩織が頷くのをみてズボンを降ろした。 「服、ぬがせて。」 自分で上着のボタンをはずしながら詩織がお願いした。 「このままでいいよ。その方がいい」 そう言うと自分の一物を詩織の秘所にあてがった。 不安な顔をし何かいいたげな詩織にかまわず貫いた。 「あぅ。あ、あっ」 いきなりのことに戸惑いながらも体は普段とは異なるシチュエーションに興奮しているようだ。いつもよりかなり濡れていた。 「感じるだろ。」 「うん、凄く、い、いいよ。」 意地悪そうに尋ねたが詩織はもうすでに自分の感情に素直になっていた。 はだけた上着から覗かしているブラをはずすと両手で胸をこねまわす。 そこに口をつけてかみついた。 「いたっ、あーいいよ。いい。」 詩織はもうすでに欲望の虜になっていた。つきあい始めてから実はそれほど関係を結んでいないのだが詩織はかなり敏感になっていた。 臥人は結合点に目を向けた。そこは詩織のスカートで隠されていて見ることはできなかった。それがよけい臥人を興奮させ見えないそこを激しく突き上げた。そのため時折スカートがめくれもうすでに液で光っている太股がちらっと覗かせた。 「今日はいいのか。」 激しくあえぐ詩織に聞こえるように尋ねた。 「うん、いいから今日臥人の家に来たんだよ。私の中でいって」 それを聞くなり詩織の足を肩に乗せ激しく動き出す。そのため今まで隠れていた結合部分が露になる。大きく開かれた秘所は臥人の物を飲み込んだり吐き出したりを繰り返す。 臥人の頭を突き抜けるような感覚が襲い限界を感じた。 「詩織、もうだめだ。いく。」 「臥人君、臥人く、っ、臥人!、いく、いっちゃうよ。」 そういうやいなや臥人の一物が強く締め付けられた。詩織の体は震え口が小さく開かれたままになった。 先に行ってしまった詩織を早く解放してやるために一段と動き速める。 詩織の体もぐったりとしながらも自分の意志とは関係無しに反応する。 背中をかけ上る快感を感じながら詩織の背中に手をまわし抱き寄せた。 詩織の中にあつい物が注ぎ込まれる。その暖かさを感じながら詩織はかすかに微笑んだ。 「とってもよかった。ふふふ、ごめんね、さきにいったちゃた」 詩織は少し恥ずかしそうにぺろっと舌をだした。 しばらく二人はそのまま抱き合っていた。 「ずっと俺の側にいて欲しい。離れないでいてくれ。」 臥人は心配そうな顔をして言った。自分の手のひらにあるはず物なのに手に入れられない、握りしめたら雪のように消えてしまう。そんな不安が頭から離れない。自分だけの物に出来ないのだろうか? 「うん。ずっといるよ。」 それをしってかしらないか素直に臥人の望む答えを返した。しかし最後に臥人のところにいれば他につき合っている人がいてもいいと考えていた。一番愛していれば・・・と。 でも臥人には二番目なんかあって欲しくなかった。自分に自信が無いのがきっとそんな気を起こさせているのだろう。 「臥人君、今何時?」 「もうすぐ8時かな。」 「いけない、もうそろそろ帰らないと怒られちゃう。」 慌てて上着をきて服を整えた。 「忘れ物無いか?」 「うん」 「それじゃ、おやすみ。」 「おやすみなさい。」 マンションのそとにでて詩織を見送った。 しばらく平穏な日々が続いた。詩織とデートとしたり暇を見ては綾乃をからかいに行ったりしていた。何もかも休み前に戻っていた。そしていやな妄想に駆られることもなくなっていた。 そんなある日のこと臥人は街をぶらついていた。担任に残され遅くなったついでに街に出てきたのだ。自分の家と反対方向にあるので滅多に来ることはないのだが。 「臥人っ!」 臥人がぼんやりとしていると後ろから大きな声で呼ばれて驚いた。振り向くとそこには綾乃がいた。 「何だよ、脅かすなよ。女のくせに大声出しやがって恥ずかしいだろ」 「せっかく声かけてあげたのに、そんな言い方無いでしょ」 ちょっと不満げに綾乃はのぞき込むように臥人の顔を見ている。 「それより、今日はどうした。お前が待ちに出てくる何で珍しいな。」 綾乃はほとんど家にいることが多く滅多に出歩くことがなかったのだ。 両手は大きな買い物袋でふさがっていた。 ![]() 「私だって、買い物くらいするわよ。年頃の女の子捕まえて珍しいは無いじゃない。」 「そうかい、ずいぶん重そうだな。一つもってやるか?」 「どうしたの臥人、熱でもあるよ。・・・せっかく言ってくれてるんだから 少し照れくさそうに袋を差し出した。それを取ろうとして綾乃の手が触れたとたん ドサッ! と音がして袋が落ちて中の物がひっくり返ってしまった。 「こら、まだ持ってないぞ。ちゃんと押さえてろよ。」 「だって・・・ごめん」 臥人は綾乃がつっかかて来るものだと思っていたのでその反応が意外だった。 「臥人、今日、家によっていってね」 「何でだよ」 「だってこの荷物持って家の階段上るの大変だもん」 「お前の荷物だろ、っとにもう。」 臥人はあきれた顔をしたが綾乃は全く気にしていなかったようだ。 「ねぇ臥人、・・・」 話しかけたが返事がなく臥人の顔を見るとこわい顔をしてどこかを見ていた。 綾乃が臥人が見ている方を見てみると男女が歩いているのが見えた。 女の人は見たことがある、詩織、臥人の彼女だった。 「ちょっと臥人、何処いくの」 詩織たちを追いかけようとしている臥人に言った。 「まってよ。そんなこそこそしなくてもいいでしょ。それに臥人だって今、私といるんだから。詩織さんだってただお友達と歩いてるだけだよ。」 そんな言葉に耳も貸さず持ってた袋を綾乃に返し追いかけた。 それを再び思い荷物を持つことになった綾乃が黙ってみていた。 臥人も綾乃の家にちょくちょく行っているので文句のいえる立場ではないが彼氏という立場上気になり、自分でも情けないと思いながら不安に駆られながらもつけていった。 心の中で疑ってるんじゃないんだと詩織に言い訳しながら。 そこで臥人は知らなくていいことはあると言うことを思い知らされた。詩織と男は辺りを見渡すとそのまま白い建物には行っていった。おそるおそる看板と見るとホテルオメガと言うのが目に入った。言うまでもなくラブホテルだ。 「なにかの間違いだ。ひょっとしたら詩織じゃなく単なる見間違いかも」 そう言い聞かせるのだが自分の頭に血が上るのがわかった。当然入り口はホテルだけの物で他にペナントが入っているなんて言うことはなかった。もう冷静では居られなかった。。他の男とつき合っているのを知っていたがこんなつきあい方までしているとは思いも寄らなかった。今すぐ詩織を怒鳴りつけ殴ってやりたいという衝動に駆られたが二人がホテルから出てくるのを冬の寒い中待っているのはもっと惨めで大人しくこの場を去った。 どうやって戻ってきたか覚えていないがしっかりと家まで帰ってきた。 その時には詩織と知らない男とのことへの想像で精神的に弱っていた。 「このまま寝よう。明日だ。」 布団の中で苦痛に耐えながら目をつぶっていたが高まった精神状態のためとても眠ることができなかった。目をふさげば詩織がそこで何をしていたかという想像が浮かびその度にそれを消すために激しく頭を振ったどうあがいても眠ることは出来なかった。 「綾乃の家にでも行こう、さっきは荷物持ってやると言ったのに悪い事したな。」 すぐにその考えが頭に浮かんだが実行できずにいたが丁度いい理由が見つかったとたん走り出した。 息を切らせながら綾乃の家に行くとまだ明かりがついていた。 「よかった。どうやらまだ起きていたようだ。」 扉をたたくが返事がしない。明かりでもつけて寝てしまったのかと思い扉を開けてみると鍵がかかっていない。ちょっと違法行為だなと思いながらも無断では言ってしまった。 すると遠くで物音がする。慌てて音のする方にいくと仏間のところが音の出所だった。 中から綾乃の声がする。 「いるんだろ、入るぞ。」 引き戸を開けるとそこには綾乃ともう一人男がいた。袴姿の綾乃は上がはだけて下着が見えていた。上から押さえつけられ襲われていた。男は両手を押さえ込み顔を胸に埋めていた。綾乃は恐ろしさのあまり声も出せないようだった。 「この野郎っ」 臥人は後ろからその男を捕まえ無理矢理綾乃から話した。その拍子で臥人はひっくり返ったが男をそのまま外へ逃げ出してしまった。 外へ出てみたがもうかげも形も見えなくなっていた。 「逃げられたか。」 そう言いながら中にはいるとまだ綾乃が横たわったままになっていた。 「綾乃っ!!」 慌てて駆け寄ると服も紙もみだして呆然としている綾乃の姿があった。こんな綾乃は初めてだった。じいさんが亡くなったときも俺の前では気丈に振る舞っていたのに。 綾乃を胸に抱えて名前を呼んだ。 「綾乃、綾乃。」 「あ、臥人だ。どうしてここにいるの。」 ゆっくりと口を開いたかと思うと急にさっきの事を思い出して臥人に泣きすがってきた。 「恐かった。臥人、恐かった。」 そう言うのが綾乃には精いっぱいだった。臥人は頭をなでてやった。 先ほどまで落ち込んでいた臥人だったがあまりのことにそのことも吹き飛んでしまった。 「怪我、ないか。もう大丈夫だ。」 抵抗したせいだろう手首が赤くなっていた。それをさすってやりながら目に涙を浮かべている綾乃にかける言葉を探していた。 「臥人、もう大丈夫。臥人が来てくれたから大丈夫だった。・・・臥人がいなかったら私、ありがとう。」 瞳にたまった涙がどっと流れだし臥人をにほほえみかけた。無理をしているのはわかっていたがうれしさを表現しようとする健気さに臥人は嬉しく感じた。 「そ、そのなんだ、本当に・・・」 「本当に大丈夫、臥人が考えているようなことはありませんよ。すけべ。」 やっと綾乃の口からいつらしい言葉が出てきた。それを聞いてやっと臥人も安心した。 「立てるか?」 「うん、だいじょう・・」 と言いかけバランスを崩し臥人に寄り掛かった。 「大丈夫か、腰抜かしたのか。」 「馬鹿!」 その通りだったので綾乃をそのまま抱き抱えて綾乃の部屋に運んだ。 臥人の腕の中で綾乃は真っ赤な顔をしていた。 「ばか、もっと違う運び方なかったの。恥ずかしいじゃない。」 「別に誰に見られるもんじゃないだろ。」 「臥人に見られるのが一番恥ずかしいんだよ。」 ちょっと頬を膨らませて臥人をにらんだ。 「でも、本当にありがと。とってもうれしいよ。」 「何度言わなくてもいいよ。わかったから。お前から感謝されるのになれてないから何か変な感じがする。」 ちょっと照れくさそうに頭をかいた。 「でも、どうして家に来たの。それもこんな夜遅くに。」 綾乃の口から言われて臥人のさっきまでのことが思い出されて心が少し曇った。 はっきりとそれが顔に現れてしまい綾乃に心配させてしまった。 「どうしたの。なにかあったの。」 さっきまでなにか合った自分のことをすっかり棚に上げて臥人に尋ねた。 臥人に助けられたから、自分もなにか力になりたいという感じが現れていた。 「いや、話があったんだけど・・・もういいや。もう遅いし。」 「詩織さんのこと?」 綾乃がじっとこちらを見つめて様子をうかがっている。臥人はその声に表情を変えてしまいごまかそうとして取り繕ったがごまかせなかった。 「詩織さんとなんかあったの、ひょっとして男の人となんかしてたの」 といってしまってしまったという顔をした。もう遅かった。 「うるさい! お前には関係ないだろう」 その通りだった。何かあったのだ。もっとも綾乃の言う何かとは実際は異なっているが。思わずいらだちを全てたたきつけるように怒鳴りつけてしまった。 「心配してるんだよ。そんな言い方しないで」 そんなつもりでなかったという事を伝えようと必死になっている綾乃。 そんな態度一つにもいらだちを感じてしまう。臥人は綾乃の手首を掴むとぐいと引き寄せ顔を自分の顔の前に持ってきて焼き殺すような目で睨み付けた。 だがそんな感情もすぐに消えてしまった。綾乃が目の前で大粒の涙を流していた。 先ほど痴漢に襲われかけたばかりなのにいま臥人にそんな仕打ちを受けてもう耐えられなくなってしまったのだ。 「ごめん、綾乃。当たってしまって」 「ひっく、・・・」 一言もしゃべらず目を閉じて涙を流し続ける綾乃を落ちつかせる言葉が見つからなかった。今まで臥人が泣かしてしまったことはなかったのだ。どうすることもできずそのままなき続ける綾乃を抱きしめた。涙で濡れた胸元が熱くなってきた。そして綾乃は臥人の背中に手を回し声を出して泣き出した。しばらくそのままでいたがふと自分の身体に触れている柔らかい物を感じた。意識しないようにしたがそう思えば思うほど頭から離れなくなってしまう。下半身に変化が現れ少し痛みを感じていた。このままではいられないので離れようと綾乃の顔を見た。綾乃は臥人を見つめていたらしく視線があった。そのとたん少し開かれた綾乃の小さな唇がふるえた。 「臥人、臥人・・・臥人・・・」 臥人の名前を繰り返す。綾乃の涙で潤んだ瞳は臥人をとらえたままだった。 臥人は自分の中で綾乃に対して今までなかった感情が生まれるのがわかった。それを打ち消そうと努力するが自分を呼ぶ綾乃の声が頭に響きその感情に流されていくのを自分のことではないかの様に傍観していた。綾乃の顔がすぐ自分の横にあった熱い息が首にかかる。そのまま綾乃の身体にのしかかるように押し倒していく。 綾乃が泣き止んだ。それは落ちついたわけではなく戸惑いからであった。 臥人は綾乃に身体を押しつけ背中に回した手を動かしながらもう片方のてで頭をなでている。綾乃は自分を落ちつかせるための動作なのだと受け取りその行為に身を任せた。 背中にまわっていた手がそのまま降りていき捲れていた袴の隙間から入り込んだ。 綾乃の身体がびくっとしたがそのまま動作を続ける事を止めなかった。再びそこから上に向かってなぞり上げ熱くなったところに触れたとき綾乃は身体を震えさせた。 それでもそれに耐えていた。その時、臥人は我に返った。あわてて綾乃から飛び退き距離を置いてからあらためて綾乃を見た。綾乃は乱れた衣服を整えながらこちらを見て弱々く微笑んだ。 「ごめん、その・・・」 「ううん、いいの。ありがと。もう大丈夫だから。」 謝ろうとする臥人の声をさえぎって言った。 「でも、・・・・」 「そんなに気にしているなら、一つ言うこと聞いてくれる? お願い、今日止まっていって。もしかしたらまた痴漢来るかもしれないし。」 そう言って臥人の手を握った。怒ってない様子に安心しながら臥人は頷いた。 今日、初めて綾乃の家に泊まることになった。 しかし臥人はすぐには眠れなかった。女の子と一つ屋根の下で寝ているんだから、すぐ寝付ける方がおかしいかもしれない。でもやはり精神的にもかなり疲れたようでいつのまにか眠ってしまった。目を覚ましたときには目の前に綾乃の顔があった。 「臥人、やっと起きたね。なかなか起きないんだから。ごはんできたよ。」 そう言うとテーブルまで引っ張られた。テーブルにはご飯と味噌汁と焼き魚があった。 さすが寺の娘、純日本食と言ったところか。 臥人は一人で暮らすようになってからまともに朝食など食べたことがなかったので呆気にとられていた。 「お前、作ったのか。」 「うん、臥人、もしかしたら朝食べなかった?」 ちょっと心配そうな顔をしている。 「いつもは食べないよ。でもそれは作るのが面倒だからで、あればたべるよ。」 というとテーブルについてご飯に箸をつけた。 「あー一緒に食べようと思ったのに」 綾乃に大きな声を張り上げられて箸が止まってしまった。」 「はい、それじゃいただきます。」 にこにこしながら綾乃が声をかけた。綾乃にしてみればじいさんが亡くなって今まで朝御飯作っていたのが自分だけのためになって寂しく思っていたのが久しぶりに人のために料理をするので張り合いがあってうれしかったのであろう。 「綾乃、そろそろ行くよ。」 「え、まだ学校行くには早いよ。」 「俺、ここに何も持ってきてないんだぞ。教科書やらを取ってこないと。」 「待って、私も行くから。」 あわてて自分の部屋に戻り用意を始めた。少しふすまが開いているのでちらりと覗くと床に広がっている綾乃の服に気づきあわてて目をそらしてしまった。 「俺の家に寄っていくと遠回りだぞ。」 「いーの」 少し弾んだ声で間髪入れずに答えてきたので臥人はそれ以上言うのはやめてしまった。 たわいのない会話を交わしながら自分のマンションの前までやってきた。 綾乃といると安心するような感じがした。いままでにはない何か浮かれているような感情もあった。 会話を弾ませながら階段を上ると家の扉の前に家の学校の制服を着た女の子が立っていた。他でもない詩織だった。 「詩織、どうした? 朝早くに。」 とぼけたような挨拶だった。昨日の現場を見た憤りがよみがえってきたのか少し皮肉を込めていった。それには気づかないように詩織が答える。 「臥人君、昨日も遅刻したから起こしに来たんだけど。・・・何処行ってたの? それに彼女どうしたの。」 ちらっと綾乃の方を見て少し刺のある言い方をした。そんなことを全く気にするつもりはなかった。臥人は平然と答える。 「中学からの友達で綾乃って言うんだ。昨日、彼女の家に泊まってたんだ。」 この答えに対し綾乃の方がビックリしてしまった。綾乃は詩織が臥人とつき合っているのを知っていたしこんな言い方をしたら当然誤解すると思たようだ。 綾乃が何か言おうとしたが臥人がそれをさえぎった。 詩織臥人のとぼけた態度に腹を立てていた。 今まで臥人にこんな態度を取られたことがなかったから。 いや一度だけあった。臥人と詩織つき合ってから初めて詩織が浮気をしたときだった。 そのとき以来である。 「彼女の家に・・・って、どういうことなの。」 怒りと不安が混ざったような声色で問いただしてきた。 詩織が偉い剣幕でにらみつける。詩織は昨日の事を臥人の見られていることは知らなかったし自分でも気にするつもりもないので納得がいかないようだった。 「綾乃が昨日色々あったから一緒にいてあげただけだよ。それがどうかしたか。 詩織には関係ないだろ。」 もう少し柔らかく言うつもりが感情的になっているため言葉を選ぶ余裕さえなかった。 「そんな言い方ってないよ。私たち恋人同士じゃない。」 「だから彼女とは何でもないって。」 「うそ、一晩中一緒にいたんでしょ。私とだってそんなことなかったのに。」 自分は好きなことをやってるくせに独占欲は強いんだな・・・そう思いながら答える。 「なんでもないて、友達だよ。俺のこと信じれないんなら仕方ないけど。」 「ずるいよ。そんな言い方。」 「お前だって昨日、男とホテル行ってたろ。しってるんだ」 なおも詩織が文句を言い続けたため思わず言ってしまった。 このことを言われたとたん詩織顔色が変わった。 詩織もそれが臥人に知られたらどう思われることくらいはわかっていた。当然のことではあったが。 「そんな、どうして・・・」 「見たんだよ。でも気にするなよ。なれてるよ、お前はいつもそうだからな。」 「でも、好きなのは臥人君だけだよ。」 すがるように詩織は言う。 「俺も好きだよ、お前のこと。それよりも何でそんなに綾乃のことに文句言うんだ。 一番好きなのはお前だよ。心配するなよ」 今は感情的になっているが落ちつけばきっとそうだと臥人は思っていた。 ただ綾乃に対する大きくなっているのは事実であったが。 「でも・・・その・・・・あとで話そうよ。」 臥人の後ろでまるで自分が悪者のような気がして居づらそうな綾乃が気になったようだ。 「先にいくね。」 そう言うと階段を駆け下りていった。一瞬振り返り冷たい視線を送った。それは臥人ではなく綾乃に向けられた物だった。 「臥人、いいの?彼女追いかけなくて。」 綾乃が心配して言う。喧嘩の理由が自分にあるのだから落ちつかないのであろう。 「いいよ。後で話すから。」 「そろそろ学校にいくぞ。」 「うん。」 まだ早いためか通学路にはまだ人がほとんどいなかった。 ふたりっきりで歩きながらふいに臥人が切り出した。 「気にするなよ。お前は悪くないんだから。それにこれくらいで別れるようだったら元々うまく行く物ではなかったという事だ。・・・いや大丈夫だよ、俺も感情的になってきついこと言ってしまっただけだよ。すぐに仲直りするさ。」 綾乃を安心させるように言ったが一瞬、綾乃の顔にかげりが見えた。しかしすぐににっこりと笑い <そうだね。臥人もしっかりしろ。>って励ましてくれた。 教室にはもう詩織が来ていた。一人で泣いていたようで目が真っ赤に腫れていた。 「詩織、」 声をかけるとちょっと気まずそうにしながらこちらを見た。こんなに弱気な詩織を見たのは初めてだった。 「さっきはごめん。きついこと言って。お前のこと好きな気持ちは変わらないよ。 俺達恋人同士だろ。」 優しく詩織に話しかけた。綾乃と話をしてすっかり落ちつきを取り戻していた。 「本当?」 自信のない声をあげすがるような目で臥人を見た。 「でもな、ショックだったよ。他の男と寝たりしてるなんて思わなかったから。」 「ごめんなさい。魔がさしたの。他の人と一緒にいたりしてもあんな事した事なんてなかったのよ。ほんとよ。」 詩織の目から大粒の涙がこぼれだした。 「もういいよ。もうこんな事しないよね。その一回きりだよね。」 念を押すように詩織にゆっくりとした口調で繰り返した。 それに対して詩織は黙ってひたすら頷き続けていた。 臥人は詩織の肩をだきよせ唇を求める。 「まって、ここ教室だよ。誰か来ちゃうよ。」 「気にするなよ。俺とつき合っていることが人に知られたら困るのかよ」 詩織は瞼を閉じて軽い口づけを交わした。これで詩織を許すことにした。そして今まで通りの関係に戻った。そのはずだった。 ゆっくりとだが着実にもとの関係に戻りつつある二人は休日を利用して映画館に来ていた。映画は詩織の好みに合わせて恋愛物だった。前はこの手の映画を見ることはなかったが恋人ができ現実問題として見ることが出きるようになったせいかそれなりに見ることが出来るようになっていた。まあやはり作り物だと言う感じを与えはしたけど。 いつも最後の方は飽きてしまい。隣で喜んでいる詩織の表情を楽しんでいるのだが、どういう訳か今日はあまりおもしろそうな風には見えなかった。 「つまらないのか?」 臥人がするには変な質問だったが気になったので思わず声をかけてしまった。 「ううん、そうじゃないの。ちょっと具合が悪くて。」 そういえば顔色が悪そうだった。 「映画、途中だけどでよう。」 「でも臥人は・・・」 「どうせ、俺はろくに見てないからいいよ。」 これは詩織に気を使ってるわけでなく本当にそうだった。気にしている詩織の手を無理矢理引っ張って近くの公園まで連れてきた。 「大丈夫か?」 「うん。」 ![]() そう答えるがやはりそうは見えなかった。詩織の吐き気がひどくなってきてしゃがみ込んで苦しそうにしている。それに見かねた臥人はいやがる詩織を強引に病院まで連れていった。詩織はちょっと不安そうな顔をしていた。少し悲しそうな目で診断を受けに行った。戻ってきたときにはひどく落ち込んだ顔をしていた。 「どうした。病気、ひどかったのか?」 うつむいたまま首を振りそれからゆっくりと口を開いた。 「臥人君、あの・・・病気じゃないって・・・その妊娠してるみたいなの。」 臥人は一瞬自分の耳を疑った妊娠なんて思いも寄らなかった。少しずづもとに戻ろうとしている二人にとっては大きすぎる出来事である。しかもお腹の子どもが臥人の子だったならまだ良かったのだがそうではないのだ。二人が交わったのはこないだより前は半年もさかのぼらなければならなかったのだ。臥人は裏切られたような思いがした。詩織の話ではこないだが初めてのはずだったのに・・・それより前から他の奴と男女の仲になっていたなんて。そう考え出すと止まらなくなりそうになった。出口の無い迷路の入り口で臥人は必死に踏みとどまった。もし詩織が本当のことを話していたのならどうだったか? 恐らく許すことが出来なかったであろう。自分のことが好きだから、だから嘘をついたんだ。今一番苦しんでいるのは彼女なのだ。そして自分は彼女を支えてあげなければならないのだ。 「お腹の子、どうするんだ」 「ごめんなさい。臥人君、ごめ・・・ん」 詩織はこみ上げてくる悲しみで言葉を詰まらせていた。 「泣かなくていいんだ。そのことはもう済んだことだろ。君がそうしてたのはずっと前のことだよ。」 「う・・ん。でも・・・どうすれば・・・」 「子ども、堕ろすんだろ。かわいそうだけど仕方ないさ。お金なら俺がたてかえてもいい。」 臥人は優しく問いかけたが詩織は複雑だった。お腹の子どもは臥人のではないが自分の子どもなのは間違いなかった。そしてその父親は臥人ほどではないが好きだった男だ。 堕ろすということは殺すということである。それに二つ返事する事は詩織には出来ないことである。そのことを察して欲しくて臥人の顔を見つめる。苦しみと悲しみの表情で・・・子どもを堕ろすのは辛い。それは女性でなければわからないことない事なのかもしれない。詩織の瞳は必死にそのことを訴えようとしていた。だが臥人にはそれがわからなかった。詩織を許そうとするのだけでも精いっぱいなのに、まして彼女の気持ちを察してあげることは到底不可能である。 「とりあえず、ここを出よう。」 というや否や詩織の手を引っ張った。小さな詩織の手を握るには強すぎる力だった。 何もいわずに臥人は歩き続けた。それを追いかけるのに詩織は走っていた。何処まで行くのかわからない臥人の歩みを土手の辺りで詩織が止めた。 「まって、」 そういうと自分の体重をかけて臥人を制した。臥人は我に返ったようにやっと立ち止まった。 「妊娠のこと少し考えさせて。この子の父親にも相談しないといけないと思うの。」 詩織は思い切って言ってみた。子どもの父親、つまり浮気の相手の事を話に出すのは辛かった。だが自分は母親になろうとしているのだという実感が沸いてそれが逃げることを許さなかった。それに対し臥人は子どもだった言えよう。もう限界だった。抑えられた感情が火山の噴火のように一気に吹き出した。 「君の相手は俺らと同じくらいの年だろ。いったい何が出来る。それにお前ももし産んだら育てていく自信があるのか。俺はそんな自信はないよ。まして他の男の子供ならなおさらだ。俺とつき合うのなら堕ろせ、産むなら別れる。それだけだ。」 はっきりと臥人は言いきってしまった。だがこれでいいのかもしれない。偽りの優しさでこの場をしのげばきっと行き詰まってしまう。他の男の子供を愛せないのならはっきりさせた方がいい。本当なら浮気をした詩織に非があり、子供を作った二人に罪があるのだ。それを責めることはしないが心の中にその思いがあるのは事実なのだ。 黙っている詩織に対して言葉を続ける。 「今日はもう別れよう。明日、落ちついてからゆっくり話そう。きっと分かり合えると思うから。」 そう言うと臥人はそのまま家に向かった。自分に非があるとはみじんも思っていなかったし明日になったら詩織も考えをあらためる、そう思っていた。 |
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