ひなひなSS # 03

〜 少女が見ていた夢 〜 by 中学生 Mei 1999/06/28

成瀬川は一瞬遠い目をして、話を続けた。
「色々悩んだけど、結局、自分の気持ちに素直になったの。
我が侭だったかもしれないし、子どもだったかもしれないけど、
今はいい思い出、好きな気持ち誤魔化したらきっと後悔してたと、思うんだ。」
「・・・・・・・・・」

「浦島センパイ、ほんとに・・・本当にOKですか?」
「もちろん。次の日曜日だよね。」
「は、はい。 あ、あの・・・私、すっごく楽しみです。」
「あれ?、しのぶちゃん。どっか具合悪いの? 顔赤いよ、熱でもあるじゃ・・・?」
「ち、違います!・・・その、そ、それじゃ浦島センパイ、おやすみなさい!!」
「ちょっと、しのぶちゃん!」
しのぶは慌てて景太郎の部屋を飛び出した。


しのぶは自分の部屋に駆け戻ると、そのままベッドの上に飛び乗って、
耳まで真っ赤に染めた顔を枕に押し当てた。

「やった!やったー!!、浦島さんと・・・ふふ、二人っきりで・・・うれしいよ〜」

激しくバタバタさせた足がベッドの上のぬいぐるみを片っ端から蹴散らしていく。
さらには、ゴロゴロと転がりだしたり、枕を抱きしめたり、
こんな事がベッドから落ちるまで続いた。

「イタタタ・・・あは、夢じゃない。」

本当に嬉しそうに笑った。

「へへ、遊園地・・・楽しみだなぁ・・・わたし、今夜眠れないかも・・・」

いろいろ想像しては顔をニヤつかせ、そのたびに照れるしのぶ。

「えっとぉ・・・こんどは、あれにのりましょうよ・・・うらしまさん・・・」

幸せいっぱいの寝顔だった。


* * * * *


窓の外は眩しい白に包まれ、空は限りなく薄い青が広がっていた。
部屋では、テレビの時報が1時を知らせ、ニュースが淡々とした声で伝えられている。
のどかなひなた荘の昼下がり。

「ふふ〜ん、ふんふん〜、ふふふ・・・」

鼻歌混じりに、しのぶは遅い昼食の用意をしている。
包丁の音がトントンとリズムを刻む。
ジュウジュウと音を立てたフライパンの上で、卵焼きが奇麗にひっくり返される。

「あら〜、もう昼かいな。」
「あ、キツネさん、おはようございます。」
「なんや、えらくごキゲンやな?」
「そうですかぁ?、そんなことないですよ〜」

みつねは、楽しげに料理をしているしのぶの様子に首を傾げたが、
そのまま椅子に腰掛け、テーブルの上の新聞を手に取った。
日本の情勢は・・などと言いながら真剣な眼差しを注ぐ。

「あちゃ〜、こりゃ大変や!!」

慌ててテレビのリモコンを取ると、素早くチャンネルを変えた。
コマーシャルが終わり丁度番組に入ったところだった。

「この昼メロ、むっちゃ面白いんや〜」
みつねはソファーを移動させ、その上にゴロリと転がってテレビに向かった。
「どんなお話なんですか?」
食事を運んで来たしのぶが興味深げに尋ねる。
「それがなぁ・・・ん?」

部屋の中が一瞬暗くなった。
太陽を遮るように雲が流れて行った。

「風、でてきたみたいやな・・・おっと、ドラマの話やったな。」

みつねはしのぶに流れを掻い摘んで説明した。
「・・・んでな、家庭教師の大学生が教え子の姉が好きなんやけど、
この男せこくてな、将を射んと欲すればまず馬やと、
妹にやさしゅうするんやけど、妹がこの家庭教師に惚れてしまうんや。
・・・で、先週、ついに妹が告白したところで・・・」

「ででで、で、どうなるんですか?」
「なんや、そない身を乗り出して? 慌てなさんな、ほら、始まるとこや。」

みつねが指差すと、画面には教え子の部屋と思しき場所で、
教師と教え子が抱き合っているシーンが映されていた。


志乃 「先生、わ、私・・・先生のこと・・・」
栄太郎 「わっ、な、何をするんだ、志乃君。」
志乃 「私の胸・・・こんなにドキドキしてるの、先生、感じるでしょ・・・」
栄太郎 「よ、よしなさい!」
志乃を突き放し背を向ける栄太郎。
栄太郎 「まだ、君は中学生じゃないか・・・早すぎるよ、
もっと自分を大切にするんだ!!」
一瞬の静寂の後、布の擦れる音がして志乃のスカートが床に落ちた。
白く初々しい半身が露になる。


「くぅ〜、このカビの生えた展開がたまらんなぁ〜」
「・・・わぁ・・・うそ・・・・・・きゃ、」

ポテチをポリポリ食べながら楽しげに見ているみつね。
しのぶは両手で顔を覆ったり、指の隙間からこそっと覗いたり慌ただしい。
そうしてる間に、場面は進み、新たな登場人物が現れた。


成美 「え、栄太郎・・・そ、そんな!」
お茶菓子を持って来た姉の成美は、下着姿の志乃とその肩を抱く栄太郎に気が動転する。
栄太郎の声に耳も貸さず部屋を飛び出す成美。
すぐさまその後を追おうとするが、志乃が栄太郎に行かないで、と、すがりつく。
そんな志乃を乱暴に振り払い、部屋を飛び出す栄太郎。


「おお、おおおお!、ええ感じや〜、志乃も、ほら、すぐ追いかけんかい!」
「ふぇ〜ん、ひどいよ〜」

この後、志乃が果物ナイフを振り回したり、紆余曲折があったが、
結局、栄太郎と成美がくっついてしまうのであった。


「うーん、最後はやっぱ色気勝ちやなぁ〜、ん、どないした、しのぶ?」
「志乃さん、栄太郎さんのこと、あんなに好きだったのに・・・」
「なんや、ただのドラマやんけ、そんな真剣に見んと。」

だがしのぶは、すっかり冷めた食事を並べながら、ため息を吐いた。

「・・・やはり、その・・・子どもっぽいのは・・・」
「ん、なんやしのぶ、子どもっぽいのがどないした?」
「え?、な、な、なんでもないです・・・」

しのぶは真っ赤になってモジモジしている。

「ははぁ〜ん、けーたろのこと考えっとったな?」
「そ、そ、そ、ち、ち、ちが・・・」
「図星やろ〜、ちょっと話してみ、どないしたんや?」

最初は黙っていたしのぶだが、観念して口をゆっくりと口を開く。

「キツネさん・・・あのぉ・・・」
「ほいほい」
「やはり、子どもっぽいと、その・・・」
「ほら、言ってしまい。」

しのぶは恥ずかしげに昨日の事をみつねに話した。
「ふむふむ、けーたろとデートねぇ〜」

みつねは、感心したようにしのぶを見た。

「ち、違います、デートじゃなくて・・・ただその二人で、その・・・」
「へへへ、そりゃ立派なデートやで!」
「そ、そうですかぁ・・・?」
しのぶの顔がちょっと明るくなる。

「つまり、けーたろを誘惑したいんやろ。」
「ちーがーいーまーす〜・・・あうぅ。」
「まぁまぁ、そーゆーことならウチにまかしとき!」
背中を向けたみつねは含みのある笑いを浮かべていた。


* * * * *


しのぶはみつねに言われた通り、大人しく自分の部屋でみつねを待っている。
しばらくしてコンコンとノックする音がした。

「入るで〜」
「どうぞ。」

みつねは大きな鞄を抱えていた。
「キツネさん・・・なんですか・・・それ・・・」
「おー、これか?、これはな〜、しのぶを大人っぽく変身させるアイテムや。」
「変身・・・ですか?」

しのぶは無意識のうちに後ずさりする。
みつねは手に持っていた鞄を開き、中のものを広げた。
「キツネさん・・・あの・・・!?」
「どないしたん?」
「こ、この黒い紐みたいなの、なんですか〜!、このちっちゃな布、なんですか〜!!」

しのぶは部屋一面に広げられた服?やらアクセサリーに顔が強張る。
不安げにみつねの方を振り向くと、みつねが今にも襲い掛かろうかとしていた。

「え?、キ、キツネさん・・・キツネさん!、そ、それは!?」
「しのぶは生まれ変わるんや、ふふ。、ほら、じっとしとき、うまくメイク出来んやろ。」
「ちょ、ちょっと待ってくださーい!!!」
「えーい、動くやない、めちゃくちゃになるで〜」
「ふぇ〜ん・・・」

しのぶは諦めてキツネのなすがままになる。

「ふふふ、ここは、こうして・・・おうおう、ええ感じや〜、で、これを着せて・・・」
「いやぁぁぁ、・・・あうぅ・・・」

「よし完成や!、しのぶ、もうええで。」
「くすん・・・もう・・・いいですか・・・」
しのぶはすっかり疲れ果てていた。

「ジャーン!初公開!!、アダルトしのぶや!!、・・・どや?」
みつねは手鏡をしのぶに渡した。
しのぶは鏡に映った自分の姿を見たまま黙っている。

「これなら、中学生に見えんやろ、うんうん、なぁ、しのぶ?」
だが、返事は無い。
黙ったまま・・・肩が小さく震えている。
「ちょい・・・しのぶ?」
「これ・・・が・・・私?」
「そうやで、な、な、大人っぽいやろ。」
「こんな・・・こんな・・・中学生に見えないけど、けど・・・こんなの・・・」
「しのぶ?」
「ひっく、ひっく・・・こんなの・・・こんなのって〜、いやぁぁぁぁ〜!!!」
しのぶは部屋から飛び出した。

「あちゃ〜、ちょっとやりすぎたか?」
みつねは頭を掻くと、散らかした部屋の片づけを始めた。


* * * * *


「ひどいよ〜・・・ぐすっ、こんなの誰かに見られたら・・・」
洗面所に急ぐしのぶ。
その角を曲がったら洗面所はすぐだ。
ここまで来るのにまだ誰にも会ってない。しのぶはほっと胸をなで下ろして角を曲がった。

「きゃぁ!」
しかし、角を曲がった瞬間、しのぶは誰かにぶつかった。
振り向きもせずそのまま通り過ぎようと試みたが、肩を掴まれ引き止められる。
肩に置かれた手の先を見ると・・・
「も、素子さん。」

だが素子が怪訝の目をみはる。
「・・・その声・・・まさか、しのぶ・・・なのか!?」
「え・・・、きゃぁぁぁ!!」
慌てて素子を振り切ってしのぶは洗面所に駆け込んだ。
「お、おい、しのぶ!」
その後を素子が追いかけた。

中ではしのぶが懸命に顔を洗っていた。
しばらくして、奥からしのぶ出て来た。
濡れたあどけない顔とキワドイ服が妙な雰囲気を醸し出している。
素子はしのぶが不安げな顔で自分を見ていることに気づいた。
しのぶは、自分の顔がおかしくないかを知りたいのだ。

「ふむ、もう大丈夫だ、しのぶ。」
「ほんとですかぁ・・・良かった・・・」
「しかし・・・しのぶ、さっきのアレは一体どうしたんだ?」
「・・・あの・・・実は・・・」
しのぶはこれまでの経緯を説明した。

「うーむ、浦島にデートを申し込むとは・・・」
首を傾げながら素子はしのぶをじっと見た。
積極性に感心しながらも、その対象に疑問を感じている様子だ。
しのぶは素子にまでデートと言われたことが、ちょっとだけ嬉しかった。
そして一瞬躊躇ったが、思い切って素子に助言を求めた。

「なに、大人っぽい振る舞いについてか?、うーむ・・・」
素子はちょっと考え込んで、話を切り出した。

「子ども、大人などと言うのは外見や年齢では無く、
もっと本質的なところから滲みでるものなのだ。」
「は、はい。」

素子の講義は続く。
「・・・物腰が落ち着いており、奥ゆかしく・・・」
「はい・・・」
「・・・良人が先を歩けば、半歩後ろをついてゆくような・・・」
「はい?」

「ん・・・しのぶ、聞いているか?」
「あ、あの、素子さん・・・それは・・・いつの時代のお話なんでしょうか?」
「心配するな、名の通った小説に書いてあったのだから間違いないぞ。」
「しょ・・・小説???」
「で、続きだが・・・どうした、しのぶ?」
「あの・・・素子さん・・・やはり・・・」

不安を感じ、折角だけども・・・っと助言を断ろうかとした瞬間、
洗面所の扉が開き誰かが入って来た。

「一部始終聞かせてもろた!、そりゃ、ちゃうで素子。」
キツネは素子に向かって指を差して、はっきりと断定した。
「先ほどのが間違いだと・・・?」
「今はビジュアルの時代、所詮、外見が全てなんや。」
「し、しかし、やはり精神を鍛えないことには・・・」
キツネと素子が火花を散らす。
しのぶはハラハラしながら二人の様子を伺っている。
だが、いつまでも傍観者ではいられなかった。
言い争ってた二人がそろってしのぶの方を向いた。

「しのぶ、メイクのし直しや、大丈夫、今度はうまくやるさかい。」
「しのぶ、私と精神修行だ。裏の滝へ行こう!」
「えっと、その・・・キツネさん?、素子さん?」
二人はズイズイとしのぶに迫ってくる。
「どっちにする?、さぁ、さぁ、さぁ、さぁ、さぁ〜!」
絶妙のコンビネーションで、じわじわ、しのぶを追い込んでいく二人。
後ずさりするしのぶの背中に壁があたった。
二人はもう目の前だ。

「も、も、も、もう、いいです!!!、自分でなんとかします〜!!!」
しのぶは二人を跳ね飛ばして逃げたした。

後にはキョトンとした二人が残された。

「難しい年頃やなぁ・・・」
「うーむ・・・」
腕組をし、考え込むキツネと素子だった。


* * * * *


しのぶは自分の机に顔を伏せていた。
部屋に戻ってからずっと考え事をしている。

「よし!、浦島さんのとこ、行ってみよ。」
しのぶはぐっと手を握りしめて、自分を奮い立たせて立ち上がった。


「はい、誰?」
「浦島さん、・・・わたし・・・しのぶです。」
「しのぶちゃん?、待ってて、今開けるから。」
「失礼します。」

「どうしたの、こんな時間に?」
「あの・・・浦島センパイとちょっと・・・お話したくて。」
しのぶに景太郎は、いつもと違う雰囲気を感じた。

「話って何?」
「あの、私と遊園地に出かけるの、ご迷惑じゃ・・・」
「突然、どうしたの・・・」
景太郎には事情が掴めていない。
だが、構わずしのぶは続ける。
「センパイ優しいから気をつかっているだけで、
本当は行きたくないんじゃないのかなって・・・」
「そんなこと無いよ。」
「でも、折角のお休みに、私なんかと出かけても・・・」
「そんなこと言い出すなんて、どうしたの?」
「わ、私、浦島センパイのこと・・・」

しのぶは真剣な眼差しで景太郎を見つめた。
景太郎は思わず顔を赤らめた。
「えっと・・・しのぶちゃん?」
「わたし・・・・・・・え、あれ・・・」
しのぶは突然我にかって、自分の行動と、
飲み込んだ言葉を思い出して戸惑っている。
そんな、しのぶを不信に思う景太郎。
「なんか、俺、嫌なことしちゃったかな?」
「え・・・、ち、ちが・・・」
「ひょっとして一緒に出かけるの、嫌になっちゃったのかな?」

「そ、そんなこと!!」
険しい表情で景太郎を見つめ、目を逸らしてから、
「そんなことありません。」と、もう一度小さく呟いた。

「しのぶちゃん・・・こんな年の離れた奴と出かけたくないんなら、別に、さ」
「ち、違います!!、私も浦島センパイと出かけるの楽しみに・・・」
景太郎にはしのぶが何を言いたいのか良く分らなかった。
だから、しのぶを安心させるように大きく笑った。
「じゃぁ、日曜日ね。俺、楽しみにしてるからさ。」
「は、はい・・・」
しのぶは曖昧な表情で応えて、景太郎の部屋を出た。


* * * * *


しのぶは、上の空だった。
「私、こんなんで大丈夫かな・・・」
一段上っては、ため息を吐くしのぶ。
「はぁ・・・ふふ、幸せいっぱい逃げちゃうかなぁ・・・」
「し・の・ぶ、ちゃん」
「きゃぁ!」
しのぶは階段を上ってすぐのところで、背中から声を掛けられた。

「あ、成瀬川先輩・・・」
「キツネと素子ちゃんに聞いたわよ、元気ないんだって?」
成瀬川は心配そうに、しのぶの顔を覗き込んだ。
こんなときの成瀬川は、しのぶとって甘えたい相手ではあったが、
悩んでいることがことのだけに、相談するには心に引っ掛かりがあった。
だが、そんなしのぶの心中を知ってか知らないでか、
普段通りの笑顔で成瀬川は話し掛ける。
「二人とも心配してたよ、あと、ごめんなさいって。」
「いえ、二人とも気を遣ってくださっていたのに、私の方こそ・・・」
「でも、どうしたの元気ないじゃない?」
「あの・・・年下の女の子ってどうなんだろ・・・」

成瀬川は目をぱちくりさせた。
「ん、そっか・・・景太郎のことね。」
しのぶは否定も肯定もしない。
「ねぇ、物干し台にいこっか、今夜は星が奇麗だよ、きっと。」
誘われるがまま、外に出ると満天の夜空に星が煌煌と輝いていた。
成瀬川は屋根の上に座り、しのぶも隣にくるよう促した。

「あのね、私もね、前に年上の男の人、好きになったことあるの。」
「えっと、瀬田さんでしたっけ?」
「あれ、知ってたの?・・・ったく、キツネね、話したの。ま、いいけどさ。」
「瀬田さんとは?」
「一方的な・・・片思いだったの・・・ふふ。」
「そうなんですか?」
「第一、瀬田先輩、鈍いのよ、しのぶちゃんの好きな誰かさんと一緒でね。」
「え、そ、そんな、好きだなんて・・・そ、そんなんじゃ・・・、
私はただ、その・・・尊敬してるというか、そ、その・・・」
「ま、そういうことにしておくね。」
成瀬川は意地悪そうに言って舌をぺロっと出す。
「ちがうのに・・・」
しのぶはすねたそぶりを見せた。
成瀬川は笑っている。

「それでさ、私もしのぶちゃんみたいに悩んだことあったの。」
「ええ!」
「あれ?、私が悩んだら意外?、もう、失礼ね。」
「い、いえ、そんな意味では・・・その・・・」
「くすっ、冗談よ、冗談。」

成瀬川は一瞬遠い目をして、話を続けた。
「色々悩んだけど、結局、自分の気持ちに素直になったの。
我が侭だったかもしれないし、子どもだったかもしれないけど、
今はいい思い出、好きな気持ち誤魔化したらきっと後悔してたと、思うんだ。」
「・・・・・・・・・」
「そ、れ、に、あいつなら、しのぶちゃんの方が勿体無いくらいよ!
ほぉら、もっと自信もってさ、ね!」

「・・・成瀬川先輩・・・ありがとうございます!」
「うん、その笑顔!、それじゃ、私、部屋に戻るね。」
「はい、おやすみなさい。」


成瀬川が戻った後も、しのぶは一人、空を見上げていた。
今日はずっと、ずっと星を見ていたかった。だが・・・

「あれ・・・雨?・・・星がよく見えないよぉ・・・」

満天の夜空に星が煌煌と輝いている。

「へへへ、雨が降る前に帰っちゃうなんて、」

涙が頬を伝わった。


「ずるいよぉ・・・」



少女が見ていた夢−完
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